「TOEICは高得点を持ってるのに、全然話せない…」
「英会話教室に通っているけど、効果が見えにくい…」
これは巷でよく聞かれる悩みです。
一生懸命勉強しているみなさんもきっと、同じ悩みを持ってこの記事をご覧になっていると思います。
今回は『第二言語習得論』からみた勉強法をみていきます。
この理論の言いたいことは1つ。
第二言語の習得には、大量のインプットと少量のアウトプットが重要です。
第二言語習得論は、言語学の一分野で科学的に研究されている理論です。
現在も活発に論文が発表されています。
体験談や口コミといった主観的な意見に左右されるのとは、もうおさらばしましょう。
ちなみにこの記事の著者は、オーストラリアにある大学でゴリゴリの理系の学部で勉強した経験があります。
帰国後、ごく普通の企業で外資系企業を相手に営業の仕事をしていました。
いろいろな場面で英語がうまくできず、非常に苦労した経験はみなさんと同じです。
この理論を知った時、まず真っ先に思ったことは「この理論、留学に行く前に知りたかった!」です。
第二言語習得論とは?英語の習得にはインプットを優先せよ!
効果的な英語学習法をみてみる
理論は横に置いておいて(大丈夫。後ほどしっかりご説明します)まずは、効果的な勉強法をざっくりみていきます。
- 自分のレベルより少しだけ難しいレベルの教材を使おう
- 興味のある分野で勉強しよう
- 耳と目両方使おう
- インプットする内容をしっかり理解する
- 正しい内容が頭に入っているか確認する
重要なのは、大量のインプットと少量のアウトプット、です。
アウトプット、つまり実際に会話をするのは5だけです。
それまでの1から4はインプットに集中します。
自分のレベルより少しだけ難しいレベルの教材を使おう
つまり「なんとなーくわかる」レベルの教材を選べ、ということですね。
わからない・聞き取れない単語はあるけど、前後関係と全体的な内容とを掛け合わせると大体わかる、くらいがちょうど良いです。
第二言語習得論には、インプット仮説という考え方があります。
このインプット仮説において、言語の習得をする際は勉強する教材は、自分のレベルをiとして+1のレベル(i + 1)が効果的、と示されています。
インプットする内容をしっかり理解する
第二言語習得理論では「人はインプットしたものしかアウトプットできない」といわれています。
この考えに則り、インプットする中身を正しく理解します。
aが抜けている、文章の最後まで言えないような状態では間違った英語が身についてしまいます。
興味のある分野で勉強しよう
理論の中で、勉強する内容は自分と関係の深い興味関心のあるものを使うことが第一、とあります。
これは理論云々より、感覚で理解できると思います。
学生時代、興味のない授業は眠くなりませんでしたか?
逆に好きなことは何時間でもやってられる経験を、みなさんお持ちかと思います。
そして、その内容はするりと頭に入って来ます。
例えば、観光目的の方はレストランやショッピングで使える会話集で勉強すると良いですね。
海外ドラマが好きな方は、英語音声と日本語・英語字幕活用しない手はありません。
外資系企業へ転職の予定がある方は、面接で使えるフレーズを覚えましょう。
おなじみの教材であるTOEICのテキストで、最近のものは特にシャドーイングしやすいように編集されていることが多いです。
積極的に使用しない手はありません。
耳と目の両方使おう
第二言語習得論において、耳と目の両方を使うことが効率良いと指摘しています。
聞き取りは、文法が正しいか確認する作業がおそろかになりやすいです。
人が情報を得るのは主に視覚が8割、聴覚が1割と言われています。
例えばリスニングのトレーニング中は、実際に聞いている内容の文章を目で追いながら聞くと良い、ということになります。
この学習法は「オーバーラッピング」と言います。
正しい内容が頭に入っているか確認する
ここからはアウトプットの段階です。
実際の会話をしてみると、自身の英語に穴があることに気がつけます。
「The」が抜けた、文法がずれているといった感じですね。
言いたいことが、相手に伝わっているかも大切です。
実際に口に出してみると、案外話せないという経験も重要な役割をはたしています。
この段階を踏むことが、言語習得の最終段階になります。
第二言語習得論のメカニズムを考えてみる
大まかに勉強法をみてきました。
次は第二言語習得論の中身を細かくみてみましょう。
第二言語習得論とは?
1960年から始まった比較的新しい研究分野です。
言語学、心理学、認知科学などの考え方を融合しています。
基本的な考え方は『第二言語(つまりは母国語以外の外国語)はインプットで知識を定着させ、アウトプットのプロセスを経て習得される』です。
この理論の2本柱が『インプット仮説』と『アウトプット仮説』です。
インプット仮説は、南カリフォルニア大学教授のスティーブン・クラッシェン氏が提唱しました。
簡単にいえば、読む・聞くといったインプットだけで言語は習得できるという考えです。
アウトプット仮説は、上記のインプット仮説を反論する形で提唱されました。
トロント大学名誉教授のメリル・スウェイン氏は、言語の習得にはインプットと同時にアウトプットも重要な役割を担うと指摘しました。
各々見ていきましょう。
インプット仮説と受容バイリンガル
インプット仮説の重要な考えは『i + 1の理解可能なインプットを続けることで、自然と言語は話せるようになる』というものです。
この中で、アウトプットはあくまでもインプットの結果であって、トレーニングそのものにはなり得ない、と主張しています。
しかし、インプットのみでは実際に使える言語習得は難しい、と反論する例があります。
それが『受容バイリンガル』と呼ばれる人たちの存在です。
受容バイリンガルとは二つの言語を聞いて理解はできるけれど、片方の言語しか話せない人たちのことです。
受容バイリンガルは移民二世、三世によくみられるケースです。
日本からアメリカへ移住した親から生まれたお子さんを例にみてみます。
学校に行くようになって英語しか話さなくなり、日本語が理解できても話せなくなる状態です。
家で親に日本語で話しかけられても英語で返すのです。
アウトプット仮説はインプット仮説を否定していない
先にお話ししたように、アウトプット仮説はインプット仮説に反論する形で生まれました。
しかし、決して否定をしていません。
『インプットは非常に重要だけど、アウトプットも必要だよね』というのが、この仮説の軸です。
アウトプット仮説を提唱したスウェイン氏は、フランスにおいてとある実験を観察した結果を論文内に記述しています。
学校の生徒たちに『理解可能な大量のインプット』をさせました。
一方、アウトプットの機会を与えていません。
すると、リスニングやリーディングは可能になりました。
しかし、スピーキングの能力については流暢なものとは程遠かったと結論付けています。
インプットの重要性
第二言語習得論において、前提にあるのが『人はインプットしたものしかアウトプットできない』ということです。
大量のインプットが必要で、アウトプットは少量で良い理由はここにあります。
いくら効率の良い(そもそもインプット無しにはアウトプットできないので、語弊が生じますが)アウトプットを行ったところで限界は早いのです。
予測文法力と自動化が英語習得の最終目標
大量のインプットの最終目標は、予測文法力と自動化を身につけることです。
第二言語の習得=予測文法力と自動化の習得と表現できます。
急に聞きなれない単語が2つも出てきました。
1つずつ説明させてください。
予測文法力とは、例えば『I’m used to…』の後にどのような文法の単語が入るか、と無意識に瞬時に予測する能力です。
自動化とは、予測文法力を無意識に発揮できることのことを指します。
この記事を読んでいるみなさんは、日本語が第一言語の方が大半だと思います。
普段の会話で「この記事を、の後にくる文章は…『読む』の過去進行形だから…」と考えたことはないでしょう。
これは、日本語における予測文法力が身につき、自動化されているからです。
さて、第二言語習得論において人は言葉を使う際、常にどんな内容がくるか予測・検証しているといいます。
この繰り返しを行うことで、言語を自由自在に話せるようになるのです。
自転車の乗り方で具体的に説明しましょう。
子供が自転車の乗り方を練習する場面を、想像してください。
初めは補助輪をつけて走りますね。
補助輪ありでも、意識的に自転車を動かさなくてはうまく前に進みません。
しかし最終的には、無意識に自転車を乗りこなすようになります。
予測文法力と自動化も同じことです。
次に来る単語や文法を予測しながら、自身の英語を正しい英語へと近づけていく。
この経験を意識的なものから無意識のものへ変化させることが、インプットの役目です。
自動化についてはアウトプットも役割を一部担う部分がありますが、インプットが前提、ということを忘れないでください。
アウトプットの役割
では次にアウトプットの役割を見てみましょう。
インプットした内容を確認して、効率よく習得させる。
おかしい文法がないか単語の発音がおかしくないか、正確に言いたいことが伝わっているかを意識する。
これがアウトプットの役割です。
詳細にみてみると3つの機能に別れます。
- Noticing Function (気付き機能)
- Hypothesis-testing function(仮説検証機能)
- Metalinguistic function(メタ言語的機能)
まずはNoticing Function (気付き機能)です。
『自分の言いたいことが相手に伝わっているかどうか』を確認する役割です。
自分が伝えたいこと、と自分の能力を持って伝えられることのがギャップを認識します。
このギャップがわかることで、次はこれを勉強しようあれをインプットしてみよう、といったように意識することができます。
次にHypothesis-testing function(仮説検証機能)です。
実際に会話を行う中で『自分の思った通りの意思疎通』という仮説を検証する(確認する)機能です。
先程の気付き機能と似ていますね。仮説検証機能の場合は、実験で気付き機能はその結果、と考えると良いです。
最後はMetalinguistic function (メタ言語的機能)です。
実際に話した内容を振り返ることです。例えば『さっき三単現間違えたな』または『あの単語の使い方間違えていたな』ということです。
細かい文法や単語の使い方に目を向けられる、という機能です。復習と同じ効果で、インプットした内容の定着を促進します。
なぜ日本人は英語が話せないのか?
ここで、TOEICが高得点でも話せない理由と、英会話スクールの効果が見えにくい理由をみてみましょう。
もうお分かりかと思います。
TOEICはインプットばかりで、アウトプットの機会がゼロ。
一般的にTOEICというと、リーディングとリスニング能力の試験と認識されていますね。
スピーキングの試験は含まれないことが大半です(実際にはTOEIC Speaking & Writing Testも実施されています)。
つまり、アウトプットの機会がありません。
第二言語習得論的にみてみると、アウトプットがないのだから話せるようにならないのは明白です。
アウトプット仮説を提唱したスウェイン氏に観察された生徒たちと、環境が全く同じですね。
英会話教室を宝の持ち腐れにするな!
第二言語の習得には、大量のインプットと少量のアウトプットの両方が必須とお伝えしました。
英会話教室は、最高のアウトプット空間です。
アウトプットの3つの役割(気付き、検証、メタ言語的機能)が全て揃っています。
しかし、どうしてもアウトプット中心になるので、インプットは少なくなる傾向にあります。
第二言語習得論的に、このままでは効果は目に見えにくいですね。
事前に予習することで、英会話教室を100%使いこなしましょう。
まとめ
いかがでしたか?
第二言語習得論の観点から、英語の習得には大量の理解可能なインプットと少量のインプットが重要です。
「この理論、留学に行く前に知りたかった!」と私が思った気持ちを、今、みなさんが共有していないことを願います。
英会話スクールに通って奮闘してらっしゃる方は、ぜひ予習のインプットにも力を入れてみましょう!
この後はぜひ、今回お読みいただいた勉強法を実践いただけると嬉しい限りです。
また別記事でも英語学習の効率アップに使える考え方をご紹介していますので、合わせてご参考くださいね。
第二言語習得論を知って英語学習の効率が良くなるコツをマスター! 英語の効率の良い勉強法の秘訣である「認知言語学」をご紹介! 英語脳の作り方のコツは「認知文法」にあった!具体的な鍛え方をご紹介!お疲れ様でした。
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