大母音推移とは?英語の発音とスペルはなぜ一致しない理由を解説!

大母音推移とは?英語の発音とスペルはなぜ一致しない理由を解説!

みなさんは英語を学習するとき、スペルと発音の違いに疑問を感じたことはありませんか?

例えば、“moon”が「モーン」と発音しないこと、 “clean”が「クレアン」でも「クレーン」でもない理由について、一度は誰もが考えたことがあると思います。

またこの違いのせいで、発音は分かるけどスペルが分からないという経験をしたこともあるのではないでしょうか?

実は、ネイティブスピーカーでも初めて見た単語を正しく発音できないことがあります。

彼らもその都度ネットや辞書で調べて発音を覚えるのです。

その証拠に海外では、スペリング・ビーという英語のスペルの正確さを競う大会があります。
日本語だと、どんな単語でも聞けば、漢字は書けなくてもひらがなで書くことは可能ですよね。

この記事では、英語のスペルと発音がなぜ一致しないのかを英語の歴史「大母音推移」から解説していきます。

英語の歴史と聞くと、「なんだか堅苦しく取っつきにくいなぁ」と思われるかもしれませんが、重要な点に絞ってできるだけわかりやすく解説しますので、最後まで読んでいただければと思います。

大山俊輔 - 共同監修人

この大母音推移を理解するには、英語の歴史を理解しておくことがとても重要です。YouTube動画でも詳しく英語の歴史についてをまとめています。

英語の発音とスペルはこんなに一致しない!

英語の発音とスペルはこんなに一致しない!
歴史を見ていくのもたどっていく前に、どれくらい英語の発音とスペルが一致していないのか体験できるテストをしたいと思います。

みなさんはこの単語の読み方がわかるでしょうか?

“ghoti”

答えはすぐ下にあるので、考えたい人はスクロールせず、ここで考えてみてください。

正解は、“fish”と同じで「フィッシュ」と読みます。
正解できましたか?

できませんよね(笑)

実はこの単語は存在しておらず、辞書にも載っていません。
とあるノーベル文学賞作家が作った英語の発音とスペルの不一致さを表現したジョークなのです。

どうやったら「フィッシュ」と読めるのかというと、

“laugh”(ラフ)の“gh”
“women”(ウィメン)の“o”
“station”(ステイション)の“ti”

を組み合わせて発音すると、スペルは“ghoti”で「フィッシュ」と発音するということが可能なのです。

日本語だとこのよう現象はありえませんよね。
「あ」は「ア」以外の読み方がないように、すべての文字に読み方が一つしかありません。

なぜ英語はこんなにも分かりづらい発音にしてしまったのでしょうか?
もとからこんなにも学習者にやさしくない言語だったのでしょうか?

この謎を解明すべく英語の歴史について少し勉強しましょう。

英語のスペルと発音が一致しなくなった大母音推移

>英語のスペルと発音が一致しなくなった大母音推移
4~5世紀にアングロ・サクソン族という民族がブリテン島(今のイギリス)に移住し、その民族の言葉が英語の起源とされています。

“English”という単語はアングロ・サクソン族を表す“Angle”が由来とされています。
ちなみにフランス語では、“English”は “anglias”と言います。

そして、この時の英語は発音とスペルは一致していたのです。
日本におけるローマ字読みに近い状態です。

どういうことかというと、“clean”は「クレーン」と発音し、“good”も「ゴード」、“he”は「へー」と発音されていたのです。

その後、英語はヴァイキングの侵略やキリスト教の普及などによって様々な言語の影響を受け変化し続けていきました。
そして、その発音に合うようにスペルも柔軟に変化していったのです。

また古い英語では、方言などで違いがある単語には、同じ単語だったとしても何通りもスペルがあったりもしました。
それくらい発音とスペルが一致していたのです。

このままであったならば、21世紀の英語学習者はスペルを何度もノートに書いて覚えるという作業をしなくても済んだかもしれません。(笑)

しかし、15世紀中ごろから英語の発音が大きく変わっていきます。

これを大母音推移(Great Vowel Shift)と言います。

これによって、英語の母音の発音の仕方が大きく変わりました。
この大母音推移を詳しく見ていきましょう。

大母音推移(Great Vowel Shift)

大母音推移(Great Vowel Shift)
大母音推移はオットー・イェスペルセンというデンマーク人の言語研究者が明らかにした現象です。

先ほど説明したように、この現象によって母音の発音の仕方が大きく変わりました。
この大母音推移によって、なぜ “moon”が「ネーム」と発音されるようになったのか解説していきます。

これを説明するのに欠かせないのが舌の動きです。
この舌の動きがどのように変化したのか、みなさんにも体験してもらいましょう。

まず、日本語の「ア」「エ」「イ」を発音してみてください。
「ア」を発音した時の舌の位置が一番低く、その次に「エ」、一番高いのが「イ」であること分かると思います。

同じく「オ」と「ウ」も発音してみてください。
「オ」のときよりも「ウ」のときのほうが舌の位置が高くなりますよね。

ちなみに「ア」「エ」「イ」と「オ」「ウ」が別グループであるのは、舌が口の中の前方にあるか、後方にあるかの違いによるものです。

大母音推移では、それぞれの母音を発音するときに舌の位置を一段ずつ上がっていったのです。

「ア」は「エ」、「エ」は「イ」、「オ」は「ウ」と発音されるようになったのです。

そして、舌の位置が一番上にあった「イ」や「ウ」は、「アイ」や「アウ」のような二重母音で発音されるようになりました。

この変化によって“clean”は「クレーン」から「クリーン」と変わり、“good”も「ゴード」から「グード」に、“he”は「へー」から「ヒー」と発音されるようになったのです。

15世紀から17世紀前半までの長い時間を経て、このように変化していったのです。

なぜ英語のスペルは変わらなかったのか?

大母音推移が起こるまでにも英語の発音は変わり続けてきました。
それにつれてスペルも変化してきました。

しかし、大母音推移のときにはスペルは変化しなかったのです。

その原因とはいったい何なのでしょうか?

答えは、活版印刷の普及です。

大母音推移は15世紀中ごろと言われていますが、ちょうど同時期にドイツのグーテンベルクという発明家が活版印刷を発明したのです。

それまで本は人が手書きで書き写していたのですが、この発明により本の大量生産が可能となったのです。

そして、本を通じて様々な知識や情報などが全世界に広がり、また本の長期間の保存も可能となりました。

そうなると、今まで一部の人しか読まれなかった本が多くの人の手元に渡り、共通のスペリングが国内に普及していくことになり、知識の面でも階級に差がなくなってきます。

共通のスペルが広まっていくことで、それまで方言などによって差があったスペルなども統一されていき、標準語が確立されていきました。

これによって、スペルは固定されたのです。

「言葉は生きもの」と言われるようにその後も英語の発音は、大母音推移のように変化していきますが、スペルは固定されたままになってしまったのです。

これが現代の英語の発音とスペルの乖離の原因となっているのです。

この活版印刷の発明人類の偉大な発明の一つとされていますが、この発明のおかげで現代の英語学習者が苦労するようにもなったのです(笑)

大母音推移が起こった原因とは?

大母音推移が起こった原因とは?
そもそも大母音推移が起こった原因とはいったい何なのでしょうか?

実はこの原因はいまだ解明されておらず、今も研究が行われているようです。
現状では以下の歴史的要因が関係していると考えられているようです。

黒死病
14世紀に黒死病と呼ばれる病気が流行り、多くの労働階級の人たちが犠牲となりました。

その後、労働者たちはより高い賃金を求め、イングランド内の移動が盛んになりました。

その結果、多くの方言が混ざり合い発音の変化が生まれたという説があります。

また黒死病によってもともと少数であった中流階級の人が犠牲となり、下流階級の発音とスペルが一致しない英語が一般的になったとする説もあります。

フランス語の影響
これにもさまざまな説があります。

単にフランス語を由来とする外来語が多く入ってきたことが原因であるとする説。

その反対で、戦争から生まれた反フランス感情から、英語とフランス語を明確に区別しようとし、意図的に発音を変えていったとする説もあります。

まとめ

英語の発音とスペルは、ネイティブスピーカーでも混乱するくらい一致しないものなのです。
そして、その背景にはいまだ原因が分からない大母音推移という現象と活版印刷という科学技術の進歩の2つの要素がありました。

今回は母音をメインとして取り上げましたが、このほかにも“knife”の“k”が発音されない理由、 “make”の “e”が発音されない理由など英語の発音とスペルの関係には謎がたくさんあります。

興味を持った方はぜひご自身で英語の歴史について勉強されてみてはいかがでしょうか?

英語の歴史について詳しくなることで、より一層英語を深く理解することができ、学習効率が上がるかもしれませんね。

また別記事でも英語の歴史を解説していますので、合わせてチェックしてみてくださいね!

知ってた!?英語の歴史
知ってると英会話学習でも役立ちます! – ジャンヌ・ダルクも関係してた!イギリスの公用語はフランス語だった!?イギリスで英語が公用語になるまでの物語

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